ある産業医さんからのご助言(トラック時報)
毎月2回東京都トラック協会から発行されている「トラック時報」という会報誌に、今回トラックパイロットさんへの健康に関する有力な情報がございましたので、生活習慣を省みる一つの手段として参考にしていただければと考え、共有させて頂きたいと思います。
「健康診断の事後措置の重要性」というタイトルで掲載されておりました内容は、トラック運転手だけでなく一般企業で働くサラリーマンさんにも非常に有効な情報であると感じております。気難しい内容ですが、人間のカラダの観点では非常に重要な内容であります。
近年の健康起因により残念ながら死亡してしまったドライバーの大半を心臓疾患、脳疾患、大動脈瘤および乖離が占めているのだそうです。これらを防止するために、産業医の先生が解説を交えてくれておりました。
そもそも、脳血管疾患と心臓疾患とは・・・
「脳血管疾患とは、脳の血流が悪くなることで引き起こされる病気の総称とのこと。脳梗塞(血管が詰まり、脳の細胞に酸素が届かなくなる)と脳出血(血管が破れて、脳内で出血が起こる)などが含まれます。いずれの場合も突然症状が現れることがあり、これが運転中に起こると大事故の原因となります。例えば呂律が回らない、片側の手足や顔が動かない・動かしにくい・しびれる・手に力が入りにくい、ふらつき、目が見えにくいなどは、脳梗塞や脳出血を疑います。小脳梗塞では、酔っぱらった時のような千鳥足やしゃべり方になります。脳出血やくも膜下出血では、突然の頭痛が起こることもあります。特にくも膜下出血の頭痛はハンマーで殴られたような、いままでに経験したことのない激しい頭痛と表現されます。」
「心臓疾患の中でも特に運転事故に繋がりやすいのは、狭心症と心筋梗塞、大動脈瘤および解離です。狭心症は、心臓の血管が詰まりかけて心臓に酸素が届かなくなることで、症状が出現します。心臓の血管が完全に詰まってしまうと、心筋梗塞になります。両疾患とも突然の強い胸の痛み、冷や汗、吐き気が生じます。狭心症はこれらの症状が数分間続き、安静やニトログリセリンの服用により軽快します。心筋梗塞は30分以上症状が続き、狭心症は心筋梗塞の前兆となる場合もあります。大動脈瘤および解離は、大動脈が裂ける病気です。非常に死亡率が高く、怖い病気です。瘤とはコブのことです。血圧が高い状態が続き、動脈硬化によって動脈の壁が脆くなると、ホース上の動脈にコブができます。コブだけであれば何も症状はありませんが、血圧上昇などでこれが破けると、大動脈解離として強烈な胸や背中の痛みとともに、出血による血圧の低下、意識消失を来たします。」
なお、脳出血疾患と心臓疾患、大動脈瘤および解離は、健康起因による死亡事故の原因疾患として、78%(国土交通省:令和5年度事業用自動車健康金事故対策協議会資料より)を占めているそうです。
これは一つの例ですが、健康診断で血圧が190/100ミリメートルHgで未治療であった場合、ほとんどの産業医さんの判断は就業制限(車の運転禁止、高所作業禁止、夜勤禁止、残業禁止)が必要であると判定します。脳梗塞などのリスクが高いという理由です。就業制限は治療を開始するまでであったり、主治医が通常勤務できると判定するまでであったりと状況を考慮いたします。会社はこれを受けて、産業医さんと当該労働者から話を聞いて、就業制限の内容を決定します。もちろん、会社は産業医とは異なる判断で、運転可能と結論付けることもできますが、もしもその労働者が業務中に健康起因事故を起こした場合、会社側の責任になる可能性があります。
健康診断の結果がいくつ以上で就業制限をかけるのかという決まった基準はありませんが、多くの産業医さんが就業制限を検討する数値は、血圧180/110ミリメートルHg、空腹時血糖200ミリグラム、随時血糖300ミリグラム、ヘモグロビンAlc10%、ヘモグロビン8グラムどと報告されています。
最後に、健康診断結果でよい結果を維持するために、日頃からできることを産業医よりお話します。
まず血圧です。血圧は120/80ミリメートルHg以下であれば問題なし、それを超えたら減塩、減量、嫌煙・減酒、睡眠時間の確保など、生活習慣の改善を始めます。140/90ミリメートルHgを超えたら服薬・通院を検討するレベルだそうです。血圧の薬を服用することを嫌がる人もいますが、最近の降圧薬は血圧を下げすぎることなく、心臓や腎臓の保護作用(アンチエイジング作用)があり、市販のサプリメントよりも効果があると断言できます。服用をしていれば脳梗塞、心筋梗塞、認知症などを予防してくれます。次に高脂血症(脂質異常症)ですが、これは血液中のあぶらのことで、これが多ければ血管の壁に脂がつき、いわゆる動脈硬化を来たすことで、リスクを高めます。生活習慣の改善のポイントは食事です。良い脂と食物繊維を摂ること。また、減量と運動も効果的です。
業務上の健康起因事故の防止には、健康診断の事後措置や、検診結果の読み方、生活習慣改善の方法、病気の症状についての社内教育と啓発を基本として、体調不良時には、すぐに会社や上司に報告できる職場環境の形成や、業務前点呼での体調確認など、企業全体で健康管理を支援する仕組みを構築することが重要です。
<令和7年3/25発行No.1317 東京都トラック時報機関誌 「ドライバーファースト」の物流実現へ健康支援より抜粋>